
ホンハブ
Protobothrops flavoviridis撮影地:奄美大島 宇検村
さて、今回の奄美旅ではようやっとハブが出てきてくれました。それも2日目。初日は日暮れまで比較的気温も高く、これはいけるかも!?と思ったんですが、さんざ探し回った挙句、ハブの波の字もなく、ヒメハブすらチョボチョボという結果に。日が落ちてからなんとか21度をキープしていたのですが七時、八時と過ぎていくうちに、19度くらいまで落ち込んで、あとはこれにマイナス1,2度というなんとも肌寒い気温に。これでガッツリ冷え込むとヒメハブはたくさん出てきてくれるのですが、この中途半端なチョイ寒いくらいの気温ですと、なんにも出てきてくれないという典型。おまけに結構カラリと晴れていましたので、カエル類も少なく、いつも行く水場も水が少ないため常連客のリュウキュウカジカやヒメアマガエルすらチョボチョボという具合。当然アカマタやヒバァなんかのナミヘビも出てこず、中島みゆきの根暗ソングが頭をよぎります。
あぁ、今宵も波布には逢えナイツとか思っていると、とある農道で不穏な光の反射。今のパターンは!?アイツしかない!と車を停めてダッシュで戻ると、出てきてくれました!

奄美が誇る美コブラ、ヒャンです。これまで何回か奄美には行っていますが、ヒャンは外したことはありません。まぁ、2回はD.O.Rでしたが、死体でも美しすぎるヘビなので、そそくさとアルコールに漬けて標本にしたのは言うまでもありません。はっきり言ってハブよりも遭遇率が高いので、奄美ではそんなに珍しい蛇ではないのかもしれません。尤も、農道の草むらの影から10センチくらいしか出ていなかったものを見つける僕のヒャン眼が有ったのからかもしれませんが(プチ自慢?笑)。
ナイトドライブでヘビサーチを繰り返していると、独自の蛇眼というのが出来てきます。そして、この蛇眼を持つとハペ屋でフィールド重傷者がかかるやんばる病(落ちている小枝や細長い葉っぱ、サトウキビがヘビに見えてくる病気。主にやんばるでナイトドライブしている人の間で勝手に呼称していました。小石や枯葉はカエルに見えるバージョンもあり)に自覚症状が芽生えて、かつその的中率は半端ないものになります。どういうことかというと、やんばる病は少しでもヘビに似た葉っぱなんかが落ちていると「今のはヘビっぽいけど葉っぱだよなぁ…」と思いつつも車を止められずにいられない恐ろしい病気で、かつ少しでもそれが葉っぱと思ったら間違いなく葉っぱであるという無残な結果が待っているのです。しかし「今のは蛇ではなかったか!?」という認識で車を降りると必ずヘビである嬉しい必然もあるのです。この葉っぱという疑惑とヘビであるという期待が脳に生じた時、生理学的見地で検出すればおそらくアドレナリンの血中濃度が有意に異なっているはずです。なら、確信した時だけ降りろよとは思うのですが、それが出来ないのがこの病気の難病たる所以なのです。

とまぁ、この時は確実にヒャンを確信しましたし、僕のヒャンに対する自身は揺るぎなきものなので、悠々と対面することが出来ました。しかし、少しでもこのヘビを撮影したことのある人なら分かると思いますが、こやつはまったく撮影に向かないヘビなのです。この美しすぎる色彩を何とか良い写真に収めてやろうと思っても、ユルユルユルユルユルユルユルユルンとエンドレスでずーっと動き続けるのです。ヘビ撮影お得意のカップ被せや掌で包んでみても、それらをどけた瞬間「あ!どいた」という感じで、またユルユルしてしまいます。色彩が色彩なので、もういいや!とコンデジなんかでパッと撮っても美しく写るのですが、それは写っただけで「撮った」ことにはならない!と偏屈な僕なんかは思うわけで、このヘビを見つけるといつも「やった!」と思う反面、どうしよう?と思うこともしばしば。そんなわけで、顔面写真なんかでお茶を濁します。

この種特有のチクチク尻尾も撮ったし、十分です。ほ、ほんとだからねっっ!

さて、ヒャンとの邂逅も済ませましたし、次にはハブです。
ああ、かわいらしいですね。色もきれいです。黄金色に輝いてらっしゃる。モルカンパイソン、ニビイロアリノハハヘビと黄金蛇は数あれど、最上級におわすは矢張りホンハブです。し・か・し、小さい…。ハブが出てきてくれただけで御の字。前々回の日記も「期待しないよ!」なのに思いっきり期待している僕がいたわけです、苦笑。なので、折角出てきてくれたハブには申し訳ないけれどイマイチテンションが上がらず、写真もおざなりに。

瞳を開いた写真もまた撮りたかったのですが、なんかイマイチ。これでは滾るハブパッションが抑えられないので、最終日空港に向かう前にハブセンターに行って大人のハブを見てきました。

もう、こんなぐちゃぐちゃに。
このサイズのハブが1匹でも出てきてくれればどんなにか達成感が違ったことでしょう。

展示されてある最大級の個体などは頭が中学生の拳ほどもありましたからね。

そして、極めつけは全身フルストライプの変異ハブ。時に明記されず雑居ケージの隅でこじんまりとまとまっていましたが、相当珍しい個体です。一人興奮して「うわー!これは珍しいですね!フルストとか滅多に捕れないんじゃないですか!?」と飼育解説員(?)らしきにーちゃんがいたので喜んで話しかけてみると「ハブの模様は人間の指紋と同じで、一つとして同じ模様を持つ個体がいないのです。この模様は有名な大島紬のモデルとなって…5%'&''JOPMP`<,P{=)#<云々」と百円入れて解説しだすスピーカーみたいなことしか言わないので、半分絶望と満足を携えてセンターを後にしました。しかし、飼育されているハブというのは、なんでああも小汚くなるのでしょうか。
野外で見た時の興奮度は確かに違いますが、冷静になって観察しても、野外個体の肌のつやや張り、そして発色は飼育個体からはうかがい知ることのできない程に美しいものです。先の大島紬の模様も、月下に照らされた野性のハブから着想を得たという逸話が伝わっている程で、飼育個体しか見ていない人はなぜそんなにハブの模様を褒めるのだろうと思うはずです。
これは一つに展示されているハブの多くが乾燥しすぎた環境で飼育されていることが想像できます。ハブの鱗はキールだった荒いやすり状をしています。こうした鱗は一見乾燥に強いものが多いのですが、逆に水にも馴染みやすい特徴を備えています。つるつるの鱗を持ったナミヘビなんかは水をかけても水滴は鱗で弾かれたようになりますが、ザラ鱗の蛇の場合、毛細管現象のように体表の隅々まで水がいきわたる感じがするのです。そして、このしっとりした時こそ、その鱗に刻まれた色彩、斑紋が輝きを持って表現されるのです。なので、ハブを飼育する施設の方には是非ケージ内の湿度保持を考えて、せめてミスティングシステムを設置してから展示してもらいたいものです。
また、体色の暗化や色のくすみは、これは単にストレスの問題だろうなとも思います。明るい色彩のワイルドのヘビを飼っているとわかるのですが、環境に馴染んで人がいようが昼間だろうが平気で餌などとりだすと、やはり発色が良くなります。逆に飼い始めは、明らかにいじけたような色彩になっています。ヘビは一日のうち劇的な色彩の変化をする種は少ない(というかちょっと前に記載されたミズヘビくらい?)ですが、多少の明暗等は案外コロコロと変わるようです。そして夜行性の種ならば夜に、ストレスの無くなった個体ならばリラックスしている時に最高の発色を見せてくれます。展示するという目的上、中々暗い環境で飼育展示することはできないでしょうが、もし「綺麗なハブを展示したい!」と思う係員がいれば、飼育下でのCB化を目指し、はなから飼育環境に馴れた展示用のハブの育成に取り組んでもらいたいとか思っています。
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テーマ:生き物の写真 - ジャンル:写真
- 2013/05/01(水) 23:32:36|
- ホンハブ Protobothrops flavoviridis
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| コメント:6
僕が罹っている病気の病名が判りスッキリと致しました。
症状が重めかなと思えるのは気温一桁の北海道に帰ってからの自宅への帰路、路上に落ちているトラックのシートに付いてるゴムバンドの切れ端を見てブレーキ踏みそうに成ることです・・・・・
- URL |
- 2013/05/02(木) 06:35:13 |
- Mr monday #-
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こんにちは
Mr monday氏と同じく
やんばる病重症患者でございます
ヒャン美しいですね~いつの日か私も~
私、今回のヤンバルでハブ見れて写真は、撮れたのですが・・・
ビビって・・・ピンボケイマイチ写真となってしましました(汗
- URL |
- 2013/05/02(木) 09:32:56 |
- taka #-
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> 独自の蛇眼
フィールドに長けた人ならではですね。ヘビに限らず、昆虫でも魚でも、野外での生き物探しでその道に長けた人にしか分からない、あのピンと来る感覚。
それにしてもやはり野生下のハブは例えようがないくらい綺麗ですね。
今までこのブログで掲載されていたホンハブは成体が多かったような気がしますが、勘違いでしょうか。今回の小さな個体は新鮮でした。
- URL |
- 2013/05/02(木) 13:07:20 |
- くりいわ #dS5vVngc
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全身フルストライプのものは奄美のですよね?明記されていないというのがもったいない。。
この出方は恐ろしく格好良いっすね。久米のも良いですけどなんだか魑魅魍魎としていて、それこそ自然下での発色で見た時のことを妄想してしまいます。
- URL |
- 2013/05/03(金) 09:05:32 |
- ジーク #-
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コメントありがとうございます!
やんばる病はいかん病気ですよ。幸い最近は軽傷で、流石に冬にまで発病することはなくなりました。
ヒャンは一晩中奄美を走りまわれば一頭は出てきてくれるような気がします。ハイよりは見つけやすいかと。
ハブは、そうですね。やんばるでは少しは小さいの出てきましたが、奄美ではいつもこのサイズしか出てきてくれません涙。なんというか、このサイズは落ち着きがなくやんちゃなので、撮影していてちょと萎えるのです。でかいと撮っていても緊張感があるのですが、このサイズは…。ま、綺麗は綺麗だったのですが。
ストライプのは奄美産でしょうね。凄すぎます。これ以外にも原ハブ屋にも持ち込まれたことがあるようです。沖縄の個体と違って、奄美のものはこうして模様がストライプ状になる個体が多いようですが、この個体のように全身に見事になる個体は非常に稀でしょう。
- URL |
- 2013/05/04(土) 18:41:05 |
- 化野 #-
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