Rhamphiophis rostratus 以前丈夫で飼い易いと書いておいて、間抜けな事故で落としてしまったクチバシヘビ様。綺麗な死に様だったので、骨格標本にお成りいただいた。自戒の念とともに、次買うときはしっかりと管理するように心がけよう。
さて、ひとつ前の記事で書いていたツリーボアに対するコメントですが、返答がなかったためここに記すことにします。私のコメントが非常に長ったらしいので、別枠で。まぁ、こうした野生動物を飼育している以上こうした質問は避けられないのでしょうが、今回は余りにもその姿勢が褒められたものではありませんした。
では、どうぞ。
「はじめまして。いつもこのブログをチェックしている者です。
写真が綺麗で、いつも溜め息をついております。
ところで、このボアですが・・・
いったい、このヘビのどこが素晴らしいのか、ワタシには全然わかりません・・・
珍しい、という以外に理由がないのだとしたら、爬虫類飼育マニアというのは「世界のすべての爬虫類を飼育しなければ満足しない人種」なわけで・・・・だとしたら、希少種保護の観点からしたら、まったく邪魔な存在ですよね??
「マイナーだから、影響力は気にしなくていい」という考えもあるでしょうが、その辺りの率直な意見をお聞かせいただければと思います。 」
とまぁ、このようなコメントが書きこまれたわけです。ツリーボアの魅力はさておき、珍しさと希少種保護という言葉の概念が固まっていない人の様だったので、このツリーボアの一例をあげて回答しました。以下が私の回答。
「まずはブログへのご来訪ありがとうございます。いつもチェックして頂いているようで、うれしく思います。今回の様な意見はこうした野生動物を紹介するブログでは重要なものですし、僕自身認識を改めると言う点で大変ありがたく拝聴しました。少々長くなりますが、僕なりの意見を述べさせていただきます。
さて、本記事の
Corallus ruschenbergeriiについて、まず○○様の意見としてはこの種の素晴らしさが全くわからないということですが、それは私の写真の表現が未熟だという点がまずあると思います。その点はいかなる種も魅力的に写すことが出来る様精進する様努めます。
僕がこの種を初めて知ったのはもう10年ほど前になります。当時アメリカの爬虫類雑誌で「Reptiles Magazine」という雑誌があったのですが、その中にトリニダードのフィールド記事が掲載されており、そこに本種の見事なアダルト個体の写真が掲載されていました。当時ツリーボアと言えばガーデンツリーこと
C. hortulanusがポピュラーで、その上にエメラルドツリーボアがいる程度の認識でしたので、その写真を見た時の衝撃は計り知れないものでした。本種はツリーボアの中でも下手したら最も大型になる種で、成長しきったアダルト個体の迫力はエメラルドツリーボアを遥かに凌ぎます。
色彩もそれまでのツリーボアには無い様な金属光沢とそれが錆びたような斑紋が入るもので、僕の中のツリーボアの概念を覆してくれました。そういう考えに至るのは、まず自分の中でのツリーボアという認識というか知識が構築されていないと、本種をただ見ただけでは地味な体色のヘビとしか映らないかもしれません。
つまり僕が本種を素晴らしいと感じる要因はまず、本種のサイズと形質という点が、私の認識を揺さぶることで生じたものです。
さて、そうなるとなんとかこの種を実際に見てみたいと思うようになります。しかし、本種の分布域は中米から南米の一部と限定的で、そうそう生き物の輸出入がある地域でもありません。そうした意味ではペット業界での流通の無さから「珍しい」という属性が付加します。さらにツリーボア自体はエメラルドツリーボア以外あまり人気のあるものではありませんから、注目する業者もおらず本種が「マイナー」である一因となっています。本種の場合、「珍しさ」は後から付いてきた要因でした。
「珍しさ」と一言で言っても様々な種類の珍しさがあります。上記したように、輸出条件、注目度からペット業界で珍しいとされているようなものがいます。しかし、実際生物学的な「珍しさ」で考えると、また異なった見解があると思います。
生物保護的な目で見れば、まず本種の生息域の大半は自然保護区域に指定され、大規模な森林伐採や環境改変がない限りその生息数は脅かされるものではないと感じます。実際現地の論文や報告書を読んでみると、本種に関しては非常に生息数は多いという描写をよく見かけます。それ故、まず保護観点からはそう珍しい種ではないように思います。
次に、研究側面で言うと、中米から南米に広く分布するツリーボアの一群は生物地理学と系統学的に良い研究題材であり、2013年には本属の統括的な系統を扱った論文も発表され、興味深い議論が展開されていました。そうした点で本種は中米という他種があまり進出していない地域で分化した種であるので「珍しい」と捉える事が出来ます。
この様に生き物を「珍しい」と定義する場合はどの分野においての認識なのかを理解し、評価することが大事であると思います。それ故、僕も最近のペット業界で良く使われる「珍!」や「レア!」といった表記には少なからず首をかしげることも多いですし、それが本質的に地球環境的に「珍しい」種であった場合、ペットとしての流通は控えたほうがよいのではと思い、意見したこともあります。飼育者に関しても、それがどう珍しいのかを理解することなく、ただ「珍しい」とされているものを盲目的に崇拝し、ペットとしてコレクション的に集め、ただの金満趣味に走っている方を見ると軽蔑しますし、憤りを覚える事もあります。
このあたり何が「珍しい」かを巡る意見は飴屋法水氏の「キミは動物(ケダモノ)と暮らせるか?」という著書で素晴らしい解説がされており、未読でしたら是非一読することをお勧めします。
生き物に対する珍しさもそうですが、素晴らしさと言うものも一辺倒では語れません。原色鮮やかな色彩や、緻密で華麗な斑紋をもつ目を惹く種だけが素晴らしいというのは違うと思いますし、先のツリーボアの例でいえば一見すると地味な色彩でも、自己の認識の程度で素晴らしさが目に付くこともあります。
例えば、最近私はニホンヤモリが属する
Gekko属に興味があるのですが、熱帯域に分布するトッケイやスミスヤモリなど目を惹く派手で巨大な種もいいと思うのですが、ニホンヤモリに近縁で素人眼で見れば何らニホンヤモリと変わらないヤクヤモリやニシヤモリなどの地味種もニホンヤモリとの些細な違いを楽しめ、素晴らしいと感じる事が多いのです。勿論トッケイなどを馬鹿にして「地味こそ正義」とか「マイナーなものを楽しめないと本物じゃない」とか言うつもりはなく、どの種も同列に素晴らしい点がありますから、それを見つけようという気持ちなのです。地味な種類は素晴らしさに気付くのに少々時間がかかるという難点はありますが。
こうした傾向と言うのはどんな分野にもあると思います。例えばクラシック音楽でもベートーヴェンやモーツァルトの代表的な楽節を聞きなれた者にとっては、マーラーの音楽などは冗長で退屈な音楽と感じられてしまうことがあるように。
さて、長々と語ったように生き物飼育を趣味とする場合、一側面だけを捉えて評価することは勿体ない事であると思います。眼の前の対象に対して多面的に情報を収集し、客観的に評価し、時には主観的、超感情的に溺愛することもありますし、それが僕が思う生き物を趣味にすることであります。そうした意味で「本当の爬虫類飼育マニア」と呼ばれる人は実は少ないように感じます。それ以外で爬虫類を飼育する人を、僕はただのペットマニアと呼ぶこともあります。
最後に希少種保護の観点を考えると、一番の敵は「無関心な一般人」であると僕は考えます。
長々と長文失礼しました。
何かご意見ありましたらまたよろしくお願いします。」
と、今読むとちゃんと問いの答えとしては応呼していないような内容となってしまいましたが、そもそも議論の土俵が違っているような気がしたので、まずは言葉の定義と、認識の溝を埋める目的で回答しました。
そしたら、後は質問者がブッチするもんですから、なんだか私の独り相撲となってしまいました。まぁ、人のブログに書き込みする時は責任持って、常識的な行動をとりましょう。
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テーマ:生き物の写真 - ジャンル:写真
- 2013/04/12(金) 01:47:38|
- ナミヘビ(外産) Colubridae (Other region)
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| コメント:9
いつも拝見させていただいてます。お写真もですが記事も素晴らしいですね!
自分も連載マンガ家という職業柄 いろんな方々のご意見、クレームなどもらいますが この質問者のような的外れかつ失礼なモノは稀ですね。。
びっくりしました。
それに真摯に対応されている主様に感服いたしました。
自分も主様の言われる「一番の問題は無関心」という意見に同意します。
自分ら爬虫類飼いは我々の愛する小さな者達の生息域や環境に対する関心は 一般の方より相当高いのが普通ですから
この方の周りには爬虫類飼いがいないのかも知れませんね。
「よくわからないけどしらないけど」咬みつく・・みたいな人 増えてますね。。困った。
それはそうと3日のお写真 本当に素晴らしいです!!
自分は3滴ほどちびりました!
- URL |
- 2013/04/12(金) 05:34:42 |
- マンガ家 #-
- [ 編集 ]
質問者さんの質問内容は、(ありがちなのかもしれませんが)素朴な疑問でうなずけるものだと思いました。
それに対する化野さんの回答は質問者さんも含めて多くの人が納得できる素晴らしいものだと思います。
私も回答を読んでいろいろと考えさせられ、自分がそこまで深く考えていなかった浅はかさを反省しました。
今回の件で問題なのはただ一点、質問者さんが他人のアドレスで偽って質問したことと、その点を指摘されても無反応だったことですね。
ところで、「2013年には本属の統括的な系統を扱った論文も発表され」とありますが、原著を読んでみたいのですが、下記であっていますか?
M.P.E. 66(3); 953-959.
Colston et al., 2013. Molecular systematics and historical biogeography of tree boas (Corallus spp.).
- URL |
- 2013/04/12(金) 06:59:45 |
- くりいわ #dS5vVngc
- [ 編集 ]
>「地味こそ正義」とか「マイナーなものを楽しめないと本物じゃない」とか言うつもりはなく、どの種も同列に素晴らしい点がありますから、それを見つけようという気持ちなのです。
この気持ちはとても大切だね。
激しく同意しつつ、自らを省みてはっとしました。
本心ではそう思ってはいるものの、どの種も素晴らしいということを理解して欲しい一身で、どうしても注目されにくい地味なものを誇張して、自分が取り上げがちになってしまうような気がしていてねぇ。
あれもいいけど、こっちもこんなところが良いんだよとか。
よく知られているこの種も、もっとこんな魅力があるよねとか。
まぁ、さすがにお客さんを案内したりするときは誇張には気をつけてるけど、普段もそういう視点と姿勢を大事にしなきゃなぁと初心を思い出しました。
- URL |
- 2013/04/12(金) 18:56:57 |
- ちあき #o8MchJQo
- [ 編集 ]
>マンガ家さん
ご訪問ありがとうございます!
爬虫類が好きな漫画家さん!?素敵です、笑
批判は別にしてもいいんですが、顔の見えない批判ってのは便所の落書きですからねぇ。自分も批判される立場になって初めて対等な会話が出来ると思うのです。
それはそうと他にあのツリーボアの素晴らしさがわかってくれる人間がいるとは!仕上げますので楽しみにしていてください。
>くりいわさん
ありがとうございます。
たまにこうした意見は聞かれるので、まず自分の中で欲望の整理をしてみました。たしかに野性動物を搾取している身分ですが、たとえばマグロの刺身食べるのとか毎日マック食べるのとか考えると、そうした行為の方が余程生態系にインパクトを与えているんじゃないかと思ってしまいます。飼育は目に見えて判りやすいから批判も多いですが、食などに関する「嗜好」のための行動は表立って批判される事も少ないですし、また自覚もないと思います。
論文はそのとおりです。ボア・パイソングループの分子系統はここさいきんチョコチョコ出てましたが、ツリーボアを詳細に扱ったものは知りませんでしたから、興味深く読みました。
>ちあきさん
まぁ、興味ない人にまず判りやすい酒を紹介するのは有りだと思ういます。鼻から興味持ってくれないと意味ないですから。ただ、そこで終わってしまえば、只のポケモン集めになりかねないですし、その後の水引をどうするかというのはちあきさんの立場の様な方は常に考えていかないといけないンでしょうね。
- URL |
- 2013/04/15(月) 01:06:12 |
- 化野 #-
- [ 編集 ]
今日、論文読んでみました。
読みやすくてなかなかいい論文でした。情報ありがとうございました。
ツリーボア全体の進化の変遷が頭に入ったので、飼育していてそれらに思いを馳せるのもなかなかオツなもんですね。
- URL |
- 2013/04/17(水) 23:22:09 |
- くりいわ #dS5vVngc
- [ 編集 ]
飼育だけじゃなくて、様々な情報(特に現地の状況だとか、コレクション的に集めるなら系統関係など)を持っているとより楽しんでこの趣味を続けられると思うのです。
結構趣味的な視点と、系統解析の結果が類似していたので、納得しながら読めました。クックなどの分割は、やはり細分派的な意見ですよね。結構脳内クックはガーデンとは別物なんですが、大きく見たら僕はあれは統合してもいいように思います。
- URL |
- 2013/04/19(金) 21:34:28 |
- 化野 #-
- [ 編集 ]
そうですよね、様々な情報を持って飼育するのとしないのでは、同じ飼育するのでも楽しみの深さが違ってくると思います。
例えば件の論文で、文系出身で内容はあまり詳しく理解できない人であっても、
ほんの少し「ふーんそうなんだ」という点があればそれだけでもいいんじゃないかなと思います。
クックとグレナデンシスはともに1個体だけしか用いていませんが、ガーデンの枝の中で一応姉妹群として一つにまとまっていますし、
分布する両島と南米大陸間で今はジーンフローもほぼないでしょうから、わずかな遺伝的な分化だとしてもそれぞれ固有のハプロタイプを持っているかもしれません。
形態的な差異がどれくらいあるのか分かりませんが、これもわずかだとしても差異があるのなら、
やはりクックとグレナデンシスはガーデンの亜種あるいは地域個体群とするのがリーズナブルでしょうね。
- URL |
- 2013/04/19(金) 23:01:56 |
- くりいわ #dS5vVngc
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ハプロタイプはあるでしょうね。ミトコンの16Sとか置換速度の遅い領域を見ていけば特異性はあるかもしれません。たしか、クックとガーデンは腹板数で違いがあったので、ここら辺はまぁ亜種でいいのかなぁとは思います。グレナデンもどっか違いがあった様な・・・(曖昧)。それに、結構色彩や模様は被る個体は多いようですが、中にはザ・クックとkじゃザ・グレナデンみたいなその島でしか見られないような特異的な個体はいるような気がします。ちょうど日本で言えば沖縄の離島に居るアカマタなんかがイメージしやすいですね。
- URL |
- 2013/04/27(土) 03:40:29 |
- 化野 #-
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