
ヤマカガシ
Rhabdophis tigrinus tigrinus ヤマカガシに太陽を礼拝する習慣があるということを貴君らはご存じか。
福岡県の一部に巷説として流布しているものに、かつてヤマカガシは山河河岸という名称を以て、山と河を統べるヤトノカミの末裔として蛇界での栄華を誇っていたという伝承がある。大将と名のつく青大将といえど、ヤマカガシに遭ってはこれを避け、かつては蛇の代名詞であった蝮(反鼻)においてもヤマカガシの動く昼間は活動を避け、それ故夜に活動するようになったと云う。さらには、鎮西は乙事主が統べる猪の領土に於いても、ヤマカガシには決して手を出すことはなったと云う。
田畑に於いて非常に目に付きやすいこの蛇が、シマヘビのような一般性でなく、アオダイショウのような象徴でもなく、マムシのような畏怖の対象でもない不可解な位置の神聖を保っていたことは、そのどこにも属さぬ不確定さが、異物としての存在感を以て人の目に映っていたことは想像に難くない。近年まで無毒と考えられてきたこの蛇の、時折生じる特有の咬症事例もしくは頸線毒由来の症例がさらなる不可解な神聖もしくは畏怖を喚起したこともあるだろう。
ともあれ、ヤマカガシは蛇界に於いて一目も二目も置かれた存在であったが、慶長七年に書かれた「肥前百虫見聞録」にヤマカガシと太陽の縁を論じた話がある。同書によると、向かうところ敵無しで傍若無人を誇っていたヤマカガシであるが、ある太陽が燦々と照りつける日の事、一人の老人が田の傍に座って休んでいた。ちょうど1匹のヤマカガシがその場を通り、休んでいる老人に文句を垂れた。
「そこなる人間、この一帯は我が統べる田畑なるぞ。我の許しなくて休息することまかりならん」
そう高慢ちきに老人に問うたヤマカガシであったが、老人は臆することなく、
「この田畑がお前さんのものなら、それを育て上げてくれたのは誰じゃ。お天道様じゃろがい。お天道様が登っている限り、この田畑はお天道様のもんじゃ」
その反論に怒ったヤマカガシは、
「なんと道理の判らぬ人間よ。我はヤトノカミの末裔なるぞ」と老人に挑みかかった。
すると老人、さっと身をかわし、身の丈十丈はあろうかという大入道へと転身した。この老人、日和坊が化けたもので、九州でのヤマカガシのあまりの蛮行ぶりがヤトノカミの評判を落とすということで、それを諌めるため、常陸国からヤトノカミの名を受け遣わされた妖怪であった。しかし、日和坊の説得にも応じずヤマカガシの増上慢は留まるところを知らず、日和坊はついに日の光を隠してしまった。
日の光の無い田畑は荒廃し、ヤマカガシも食べるものもなくなり、ついには日を元に戻すように日和坊に懇願したという。日和坊は改心を受け入れ、田畑にはまた日の光が戻り、ヤマカガシもそれ以降はあまり威張ることなく、日が昇れば写真のようにその方向に深く頭を垂れるようになったという。
なんて、嘘ですけどね。いじったら、こういう防御姿勢とるだけです。
(使用カメラ:OLYMPUS E-620
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テーマ:生き物の写真 - ジャンル:写真
- 2010/09/01(水) 22:00:31|
- ナミヘビ(国産) Colubridae (Japan)
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| コメント:4
面白くてあっという間に読み進めてしまいましたが、嘘だったんですか?w
確かに、物語抜きで写真を見たら、ヤマカガシらしい防御姿勢ですね♪
特に幼蛇を弄り回すと、こっちにグイグイ首を押し付けてきますもんね。
- URL |
- 2010/09/01(水) 23:00:02 |
- くろたまナイト #-
- [ 編集 ]
うっかりだまされた~\(゜ロ\)(/ロ゜)/おもしろかったけれど、くやしいですっ 笑
- URL |
- 2010/09/01(水) 23:52:03 |
- SAYAKA #-
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蛇の古語がカガチってのは有名ですが、更にヤマ(確か夜に馬か何か)カガチというそのまんまな大蛇の伝説があります。
ヤマカガシを赤楝蛇と書いたり、鬼灯をカガチ(輝血)とも書きますが、更に燃える様に赤くて読みが似ているものとして、カグツチ(火の神)があります。
てなこじ付けを加えると、より信憑性のあるネタになるんじゃないでしょうか?w
おっと、挨拶を忘れていました。大分前から拝見してますよ。始めまして。
- URL |
- 2010/09/02(木) 00:20:56 |
- おりょう #-
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>くろたまナイト さん
この行動が果てしなく可愛いです。まぁ、向こうは毒を食らえ!ってな心境でしょうが。
あと、広げてるとこも撮りたいですなぁ。
>SAYAKAさん
僕は嘘はつかないけど、妄想を垂れることはあります。てへ。
>おりょうさん
はじめまして。
もう、ちゃっちゃっと特に文献見ずに書いたものなんで、穴ありまくりです。なんだよ、「肥前百虫見聞録」って・・・
ヤマカガシの赤楝蛇って書き方は知りませんでしたが、斑紋による地域的な呼称なんでしょうかね。蛇の名称の成立を追っていくと、結構不定な場合が多くて挫折しました。ただ、目下の調査対象は蛇と妖怪と神に関するアカマタのホモニムですね。
- URL |
- 2010/09/04(土) 17:59:55 |
- 化野 #-
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