
アオマダラウミヘビ
Laticauda colubrina 日本に3種いるエラブウミヘビ属のうち,本種が一番好き.こう,顔つきはピエロのような愛嬌があるのに,おそらく毒性は同属のエラブウミヘビやヒロオウミヘビより遥かに凶悪であると思われる.本種は,日夜自分よか太い凶悪なウツボ達を喰らうべく戦っている猛者なわけで,この両者は赤の女王理論的に毒性の発達と対毒性の軍拡競争という修羅の共進化を歩んでいるらしい(Heatwole, 1998).
しかし,そんな一面は外見や普段の行動から伺い知ることは出来ない.
今まで何十匹という個体を扱ってきたけれど,一匹たりとも咬みついてくるようなことは無く,掴んでもせいぜいだらだらと身をよじるだけ.口も開けやしない.エラブやヒロオもヘビの中では温和といえば温和だけれど,さすがに計測の為に押さえつけたり,胃内容物を扱き出したりすれば,怒って咬みついてくる.なのに,本種にはまったくそれがない.まわりからも聞いたことがない.
いじっておいて何だが,少しは咬みつきゃいいのに,と思う.エラブウミヘビ属の中で最も大きくなる種類だし,大きくなるにつれ頭も巨大になり,それ故毒腺も大きくなっていることだろう.一度安楽死させた大きな個体の毒を絞ってみたことがあるが,(エラブウミヘビ属の中では)強大な毒牙から透明な毒液がかなり抽出できたことを覚えている.さすがにこいつに咬まれて,あの毒量が注ぎ込まれれば助からないだろうと思った.

それでも,こいつは咬みつかない.もちろん生き物であるので,何事にも例外はつきものだし,他人に咬まないと保証するなぞ絶対したくはない.事故が起きてからでは遅いだろうし.
そもそも,一般にウミヘビは口があまり開かない,とか,滅多に咬みつかない,とかなんとか書かれていたりするのをよく見るが,ウミヘビをいくぶんか扱った身としては口が裂けてもそんなことは言えない.どのウミヘビも普通に口は開くし,確かにエラブウミヘビ属はそれなりに温和であると言えるかもしれないが,上に書いたように触り方一つで咬みついてくる危険性はある.ヒロオウミヘビなんぞは,掴んでいるとかなりの個体が口を開ける.
Hydrophis属は怒らせればガブガブ咬んできて,海の上でも陸の上でも危険極まりない.ウミヘビの危険性の一般論は,実際にウミヘビを扱ったことのない方々が作り上げているように思う.
しかし,そんな一般論の中でも,アオマダラウミヘビに関しては少し当てはまるような気はする.ガブガブ咬んでくる本種というものがいるのであれば是非見てみたい.
アオマダラウミヘビのその力は,唯一餌魚種にのみ向けられるのだと思うと,ウツボ達にちょっと嫉妬する.
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テーマ:生き物の写真 - ジャンル:写真
- 2010/02/17(水) 03:44:22|
- ウミヘビ Sea snakes
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