ブラッドパイソン!ブラッドパイソン!
さてさて、ワタクシようやく念願のボルネオブラッドを手に入れましたよ。これで我が家にはブラッド種群が勢ぞろいとなったわけっすね。といってもたった3種しかいないんだけど。
3種しかいないといっても、このブラッドパイソンと呼ばれる蛇はえらい変異が多い。同種内においても1頭たりとて同じ色彩模様をしたものはおらず、さらに地域差や最近のミューテーションも楽しめるという非常に贅沢な付き合いが出来る蛇でしょう。しかし、その反面はまり込んだらキリがないともいえる魔性の蛇でもあると思うのです。
一昔前までは何だか近づくもの全て敵!みたいな狂ったサブアダルト~アダルト個体ばかり流通してて、ベビーが入ったとしても弱弱しくて死んでまう、なんだかアジアの蛇の悪いところを凝縮したような印象のパイソンだったと聞き及んでますが、最近はみんないい子ばかり。CBは花盛りだし、FHと思われる幼蛇もずいぶん落ち着いた状態で入ってくる。それなりに育ったワイルド個体も別に最初っから怒ったりはしないものが多い。
ワタクシがまだ中学とか高校の頃はまだブラッドと言ったらビバガで有名な文句「咬まれて血を流すからブラッドパイソン」てな印象の蛇だったんですが、それ以降アルビノやマーブル等の色変が紹介されだしてから、急速にポピュラー化が進んだ印象がありますね。、まぁ、それは印象だけで水面下では今も昔もブラッド好きは荒かろうが何だろうが飼い続けていたのでしょうが、昨今大量ともいえるベビーサイズの流通で、ブラッド飼育者の数は格段に増えたでしょうし、何だか荒い性質も影をひそめ、あっという間に中堅クラスのペット的ニシキヘビとなりました。
これは以前書いたアルバーティスパイソンも同様で、荒かったパイソンがFHやCBが多く流通しだすにつれ急速にポピュラー化するというのは最近の傾向なんでしょうねぇ。グリーンパイソンなんかも昔は高根の花だったのに今や下手すりゃ1万前後で買えてしまう。
安価に養殖個体が手に入るのは喜ばしいことですが、ちょっと寂しい気持ちもするのは心がおじさんになってしまったからか…いや、まだ僕は若いはず、笑。
それはそうとブラッドですが、3種として認定され出したのは2001年 Keogh らによって出された「Heavily exploited but poorly known: systematics and biogeography of commercially harvested pythons (Python curtus group) in Southeast Asia 」という論文によるものでしょう。それまでは亜種というくくりだったのですが、生物学的または保全学的な意味合いも兼ねてそれぞれを独立種として表記する機会が増えています。
しかし、日本で流通するブラッドの多くが結構適当にしか同定がされていないように思うのですよ。取りあえずブラッドの分類についてはクリーパー誌上でも日本語で書かれた文献があるのですから、これを読めば一目瞭然とまではいかないにせよ、ブラッドマニアを自負するならこれくらいはきちんと識別していて欲しいものです。とりあえず頭頂板とか眼下板とかの意味がわからないうちはそれぞれについてあーだこーだ言っても説得力がない。
確かに色彩型でぼんやりと3種の区別はつくんですが、結構中間型のような個体も存在し、なおかつ種の記載というのは往々にして定量的に計測できる鱗のような形態形質に基づいて行われるので、色柄や個人の印象だけで議論することは多く場合無意味です。
マニア、と呼ばれる人の多くはきちんとこうした文献を元に、客観的視野と知識、経験を培った上で、遊び心を持って主観を強調するものですが、最近は生体を買うだけ買って、バックグラウンドなしにマニアの仮面をかぶってるような場合が多いのが目につきます。それは販売店とて同じ。インボイスじゃなくて自分のマニア心を大切にして判断しましょうよ。
スマトラブラッドパイソン
Python curtus さあ、そんなわけで各種の紹介ですが、ワタクシ和名で「ブラッド」ってつけてますが、はっきり言ってブラッドと冠されるのはマラヤン
Python brongersmai くらいで、あとは写真のスマトラやボルネオのように小汚い(失礼)色合いが多く、あかくねぇよってのが大半なんですよね。で、英名から考えてミジカオニシキヘビってのもありかと思うんですが、やっぱブラッドはブラッドってついたほうがかっこは良いので、形質に矛盾しますがスマトラブラッドとかいう呼び方を保守しようと思います。
種小名が示すとおり元々ザ・クルタスで、記載はもっとも古くシュレーゲルによって1872年に行われています。シュレーゲルと言えば日本でもおなじみのシュレーゲルアオガエルに献名されている御仁ですが、結構昔ながらの爬虫類見るとこうしてシュレーゲルだとかギュンターだとかジーベンだとか偉大な博物学者の名が垣間見えてロマンを感じますな。ちなみに curtus は太いという意味でまんまですが。余談で日本で迷蛇ともされるトゲウミヘビなんかにも
Lapemis curtus ということで curtus の名がついてます。ウミヘビとしてはゴン太ですからね。
さて、そんなスマトラですが他種との識別する際何を基準としたらいいのか。色彩ではたとえばフルブラックだとか、写真のようにがっつり頭は黄色で体は黒みたいな個体だと「あぁスマトラね」って感じなのですが、中間的な色合いだとか、スマトラカラーで実はボルネオでしたベロベロバーってな個体も存在するでしょうから、やはりここは鱗を基準に話した方がいいでしょう。
まず見分けやすいのがマラヤンことマレーアカニシキ
Python brongersmai ですが、マラヤン組と本種・ボルネオの小汚い組は顔を見ればすぐに見分けはつきます。見るポイントは目と上唇板。マラヤンでは6枚目前後の上唇板が眼に接していますが、小汚い組では眼と上唇板との間に細かな眼下板がわじゃぁと入り直接接することはありません。ある数流通する個体を見てもこの特徴はかなり安定しており、例外はほとんどないものと思われます。
で、次に小汚い組はどうやって見分けるの?ということですが、まずは腹板を見てやりますと
マラヤン 167‐178
スマトラ 152‐163
ボルネオ 154‐165
となって、これでもマラヤンとは識別可能なんですが、小汚組は被ってます。ではどこを見れば?というと頭の鱗なんですね。額板という脳天の鱗の左右後方に位置する頭頂板を見て識別します。本種ではこの鱗が額板によって二分され接しません。個体によっては頭頂間板が入るものもいるようです。で、ボルネオはというと左右の頭頂板が接しております。いかし、結構これ見るのが大変なんですよね。なんせ鱗の境目の色合いが小汚いので、パッと見ではどこがどう分かれているのかわかりづらい。そんな時は水に浸けましょう。それで結構はっきり鱗列が見えてきます。
そんなことで君はスマトラだねってわかるわけですが、実際分布域は離れていても本種とボルネオとは遺伝的には比較的近縁で、mtDNAのチトクロームb領域(比較的進化速度の早い領域、属内や個体群間の系統関係推定するのに用いられう場合が多い)を用いた系統樹では、この小汚組がひとつのクレードを形成し、その外にマラヤンがくっついてました。ぶっちゃけ系統樹だけ見ると本種とボルネオこそ亜種的関係で、マラヤンを別種にするという考え方もありそうですが、個々の個体群の特徴と上でも書いた保全的な意味合いでもそれぞれを種にするのがしっくりくる考え方なのだろうと僕は考えています。
ボルネオブラッドパイソン
Python breitensteini 3種の中で最も特徴がない、というか、えらく中途半端な印象のあるブラッドです。種小名はドイツ人医師、Dr Heinrich Breiareから。なんでもこのお医者さん軍医で、東南アジアに勤務中かなりの
標本を集め、ボルネオの爬虫類相の解明に貢献した人物とされています。ドイツ人昔からこんなんですねぇ。
模様も適当、色も適当、もうなんだこれ?ていうブラッドですが、僕は好きです。適当ということは、割と大柄の模様が多いわけで、一部マラヤンなどでも見られますが、ボルネオのだらっと流れるような模様のあり方は中々他では見られないものでしょう。写真の個体が典型的なものとは言えず、というか典型的なものがコレ!といえないくらい色柄ともに変異が激しい種といえます。色彩は生まれながら結構安定的で、スマトラが加齢に伴い真黒になったり、マラヤンがいきなり赤化けするてな様な劇的な変化はほとんどしないようです。黒化もなく、ヤングサイズまでに安定した色柄はずっとそのまま行くみたいですね。また、本種でマラヤンのような赤が出ることはまぁ無いそうです。
ちなみにマーブルなんてのは本種でのみ作られていましたが、最近ではマラヤンでも見られています。
この色柄の適当さが本種を一番マイナーにしている印象がありますが、個人的な印象として顔つきがいっちゃんかっこいいと思うのです。何と言うか鋭角的?非常に精悍なパイソンの横顔をしていると思うのです。確かSerpent Gothiqueでも書かれていましたが、陰険な顔、笑。ともすればそれは一番悪そうな顔ということで僕みたいに人間にはそれがかっこよく感じるものなのです。
残念ながら本物のボルネオはそう多く流通していないのですが(大半が中途半端な色合いをしたマラヤンとかスマトラ)、一度本物をじっくり見てみることをお勧めします。カッコイイですよん。
マラヤンブラッドパイソン
Python brongersmai 本種が最もメジャーなブラッドパイソンということになりますか。種小名はオランダ人研究者Dr Brongersma に献名されたもの。この人はニューギニアのヘビを多く記載した人で、かのベーレンパイソンも氏の記載によるものです。
割と本種はすぐにマラヤンってわかるんですが、これもこれで地域差があったりして、下手に模様が大柄で色味が黄色っちいものだとパッと見た時は「んん・・もしかしてボルネオ?」と悩む場合もあります。
写真の個体は結構普通のマラヤンとして典型的なものと思うんですが、これをベースに色味がより赤いもの、頭が黒くなるもの、体の後半に白い色が柄が猛烈に入るもの、サイドの黒いスポットがないもの等々があります。頸の所の模様は往往にしてスポット状に入るものが大半ですが、中にはバンド状になるものもおり、そうしたものからストライプになっていくものも見られます。
かなり外国では繁殖が盛んで、アルビノは本種が一番メジャーですし、もう何のヘビだよ?ってわっけわかんない模様も多く見られますね。また、禁断の種間交雑、ブラッドパイソンとボールパイソンってものありますが、あれってどいつと掛け合わせたんでしょうね?
ブラッドとボールなんて!と思いますが、分子系統で見てやると案外この2種って近い関係にあるんですね。大体ブラッドとボール、あとモルルスで一つのクレードを形成しているようなので、こいつらの交配はいけるかもしれません。てかモルルスとレティックでいけてるので、ここのらへんのパイソンはサイズさえ気をつければみんな交配可能なのかも…なんだか「パイソン」とか「キングコブラ」とかのB級動物パニックの世界ですな、笑。
3種の中で最も大きくなり、他2種が頑張って最大で2mを超える程度に対し、本種では2.6m、重さにして22kgは行くようです。とんでもねぇ。本種の場合ほとんど立体活動はしないので、単純に床面積が必要になります。結構成長は早く、餌をやると糞はしないでその分ムクムク成長するので、真面目に餌やって2年もたてば相当立派なサイズになることでしょう。
ベビーが安いから、可愛いからという理由で何本も購入してたら後々丸太みたいな本種がボロンと部屋を埋め尽くすことになりますので、購入はご計画的に。本種が好き、もしくは蛇のためならえんやこらって人ならいいんですが、ちょっと好きかな~で買った人はしんどくなるんじゃないでしょうかね。 とりあえずアダルトサイズを実際に扱ってから買うことをお勧めします。ただ、これもこれで、色柄にえらくバリエーションが豊富なので、何本か欲しくなるのはまぎれも無い事実なんですよね。いや、魔性の蛇なんですわ。
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テーマ:爬虫類 - ジャンル:ペット
2009/03/25(水) 05:40:19 |
ブラッドパイソン Blood Python
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| コメント:4
何いつの間に3種コンプしてんですか。
妬ましい。
ボールとブラッドのハイブリですが、とりあえずボア・パイソンのモルフを纏めた「 Designer Morphs」という本の中で紹介されてるのはスマトラのブラックタイプとのハイブリですね。なんか丸っこいべたっとした蛇です。
どうやらこのハイブリはF2までとられているようで、出来上がったこの蛇の代謝速度やらが気になるとこです。
やっぱり糞をぜんぜんしないのかしら?とか。
URL |
2009/03/26(木) 21:45:35 |
Ridleyi #-
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>Ridleyiさん
いつのの間にやらです。中々気に入るボルネオがいなかったんですが、コイツにはドキュンときました。来週はもっと素敵なブツが来ます。
しかしRidleyiさんに妬ましがられては世話はありません。貴公に対する僕の妬ましさはチョモランマよりも高く、阿寒湖よりも深いのです。
しかし、あのハイブリ、スマトラでしたか。道理で固まった血糊のように赤黒い。もうあのヘビは気になりまくりですね。糞もそうですし、巻きつけるのかとか、性格はどうなのかとか。
あ、うちのマラヤンは多分3か月くらい糞してません。なんだあのヘビ。中の人が恐ろしい。
URL |
2009/03/26(木) 22:08:29 |
化野 #-
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アダシノさんでしたか!
何も言うまい・・・
可愛がってやってください!
でも、本物がちゃんとわかる方に買われてよかったです。
URL |
2009/03/31(火) 11:27:43 |
Haruo #sSHoJftA
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狙ってらっしゃったんですか.笑
中々こうすっきりしたボルネオって見ないですよね。勿論ボルネオってきちんと同定されている場合も少ないですが。
電話でお店の方と話しまして、信用できる方と思い購入しました。
URL |
2009/03/31(火) 16:19:14 |
化野 #-
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